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Una Historia de Amor
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第二十話
御隠居の棚
何十年ぶりかの大工仕事をしながら、ふと、昔聞いた落語のひとくち話しが頭を過りました。
「テーヘンだ御隠居、テーヘンだ!!」
「またかねクマさん騒々しい、おまいさんのテーヘンだは聞き飽きたよ」
「でもこれがテーヘンでなくってなんだってんだ、御隠居のこさえたあの棚、落ちたんでさぁ」
「ハッハ、クマさんあれが落ちる訳はないよ」
「いいや御隠居、それがアッシの目の前で落ちたんでさ」
「何だって?そいじゃおまいさんまさか、あそこになんか載せたんじゃないかえ?」
作り付け家具が遅々として進まないのに業を煮やして、あと2週間で終わらなきゃ他の大工に頼むって宣言したら、なんと向こうからもうやだって仕事を放棄されてしまいました。
他の大工も探したんですが、あまり頼りになりそうなのにぶつからなくって、いっそのこと自分達でやりませんかって言うC君の勧めに、それも面白いかも知れないと思いました。
と言うのは、大雑把に言って左の写真のような骨組みが出来ていて、写真には写ってませんが引き出しは化粧板と把手をつけるだけだし、引き戸は塗装迄終わっています。
おまけに電気は、いくら何でももう来る頃だし、そうなれば電動工具を使えばたいしたことはないと思ったんです。
ところがどっこい、見た目には半ば以上終わっているかに見えたんですが、いざ手をつけてみると手抜き工事がボロボロでてくるんです。
主な仕事は右の写真の左の列ように箱だけ出来ている引き出しに右の列のように化粧板と引き手をつけることのように見えました。
でも、引き出しは矩形になってなくて開け閉めするとレールから外れたり、外れなくてもピッタリ閉らない。
この辺迄は予想の範囲だったんですが、引き出しのレールが上下逆につけてあって嵌められなかったり、引き戸がレールに乗り上げてるんでちゃんと嵌めたら、上下の寸法が足りなくて上のガイドが溝から外れてばったり倒れてしまう、、、、といやはや大変なもんです。
C君が大工から召し上げてきた電動鋸は、かなり年季が入っていてガラガラとうるさいんですが、手で鋸を引くことを思うと遥かに快適です。
大工の不始末を手直しして行くうちに徐々に腕も上がり、オリジナルの洋服箪笥(写真右)が出来上がった時は、なんとも言えない充実感にひたりました。
ついでに言うと、この箪笥、車で言うところの「隠しピラー」なんですよ。
ドアとドアの間の柱を見せないなんて手法は、今じゃ当たり前ですが、自分のプロジェクトの新車で初めて採用された、ウン十年前の若き自動車エンジニア時代の興奮を思い出しました。
それにしても、日本では大工さんと言えば職人、職人と言えば職人気質と言う言葉で代表されるテクニックへのこだわりを持っているもんですが、こちらでは全然違うようです。
鋸が電動になったのはどちらも同じでしょうが、鉋の代わりにサンドペーパー、金槌と釘の代わりにドリルとネジ釘とトライバー、鑿を使って溝を掘り、材木同士を嵌めあわせることは殆どしない、エトセトラ、エトセトラ。
要するに、専門的教育や習熟を必要としない工法が多いんですね。
だからこそ、私でも作れるってことはありますが、金になればコロコロと職業を変えるのが当たり前の社会を反映しているようで、ふと、メキシコの将来はどうなるんだろうなんて余計なことを考えます。
寝室とダイニングキッチンがほぼ出来上がったところで引っ越しです。
でも、まだまだクロセットが一部屋分半完成だし、下駄箱だの、物置きの棚だの、網戸など細々したものが残っていて、まだ暫く大工仕事が楽しめます。
それにしても、一日の仕事が終わっての冷えたビールのうまいこと、電気そして冷蔵庫は偉大なりです。
テラスに座って、薄切りのポテトチップスをむさぼり、辺りの畠や木々が色彩を失い、遠くの丘の中腹の農家の明かりがポツンポツンと灯るのを眺めながら考えます、さてこのシリーズはこれで締めくくるべきかどうかと。
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