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panchos


cactus2
第六話

最寄りの駅

cactus2

 今度日本へ行った時のために、ネットでウィークリーマンションを検索していたら、どれもこれも「駅から何分」とうたわれていました。
 そう言えば、ここにも最寄りの駅が有るとは聞いていたのですが、まだ見てないのを思い出しました。

夕焼け  我が家の東側を南北に走っている線路沿いに北へ2キロのところにChicaloteという駅が有ります。
 線路沿いに道が有り、徒歩や自転車ならいけるようですが、車では一度トライしましたがちょっと無理なようです。
 でも、小一時間はかかっても歩いていけるのですから立派に「最寄りの駅」と言っていいでしょう。
 歩いて行くには木陰もなく暑いし、ようやく雨が降るようになり今しも雨雲がでて来たので、かなり遠回りになりますが車で行きました。
 そこは、駅の有る町とは言っても通りに雑貨屋が一軒有るだけのひなびた部落です。

夕焼け  その雑貨屋で駅は何処?と聞くと、この裏にあって、あそこの家並みの切れたところから入りなさいと言われました。
 確かに線路が有って踏み切りが有るけど駅らしいものは何も有りません。
 遊んでいる子供に聞くと少し先の方を指差してくれたので、念のためにあれかと少し大きめの建物を指差すと、あれは学校だよ、その左に有る小さいやつだよと言われました。
 勿論プラットフォームが有るなんぞとは期待していませんでしたが、それにしても小さすぎます。
 待ち合い室なんかなくって地面からいきなり乗り込むような駅はいくつも見たことは有りますが、それにしても駅員の事務所のようなものは有りましたが、ここのはまるで交番のようです。

夕焼け  近付いてみると確かに建物にはメキシコ鉄道と書いてあり、外で駅員らしい人が所在なげに遮断機にもたれかかっています。
 あなたはいちんち中ここにいるの?、そうだいちんち中だ、退屈じゃないの?ああ退屈だ、なんて毒にも薬にもならない会話を交わしました。
 もともとここに駅が有る訳は、私の独断と偏見によれば、ここに重要な産業が有るからでも大きな人口が有るからでもなく、千五百キロ程北のアメリカはニューメキシコのエル・パソとテキサスのラレードからメキシコシティーに向かって下って来る二本の幹線がここで一本になるからなんです。
 で、この駅員は2、3時間に一本来る列車の貨車を離したり繋いだりするためのポイントの切り替えをすると言う訳です。

夕焼け  そういう要所に有るという地の利を活かしてこの町が栄えるという可能性もあったと思うんですが何故かここはメキシコの何処にでも有るけだるい田舎町のままです。
 私が初めてこの近くに来た10年程前には客車が貨物列車の最後尾に2両繋がれているのを時折見かけましたが、それでもこの駅での乗降客は殆ど無かったんじゃないかと想像します。
 当時の人々は、待ち合い室が無いから、事務所の裏のこの木陰にしゃがんで、いつ来るとも知れぬ列車を待ったのでしょうか。
 この線路の先2キロのところに私のランチョが有り、その先20キロ程に次の駅、ここの州都アグアスカリエンテスの駅が有ります。
 そこはちゃんと地の利を活かして鉄道の町として栄え今日の基礎を築いたのですが、今や町のど真ん中の一等地で貨車の編成をするなんてのは、民営化された鉄道には許されるはずもなく沢山有った線路は外されて綺麗な鋪装道路になり、駅舎はしゃれた博物館になり、開かずの踏み切りを作る編成の仕事だけがここChicaloteに移って来たと言う訳です。
 おかげでと言うか、挙げ句にと言うか、近くの畠を潰してドデカいモータープールが出来て、そこに溜ったアメ車を運び出しに大形トレーラーがひっきりなしに部落の狭い道路を埃を立てて通り抜けるようになりました。
 可哀想なChicalote、この小さな私の最寄り駅がひとしおいとおしく見えるようになりました。




目次

第一話
蝿の天敵

第二話
泥の家

第三話
朝焼け、夕焼け

第四話
花、花、花

第五話
一寸の虫にも

第六話
最寄りの駅

第七話
鳥、とりどり
第八話
私の散歩道
第九話
ハカランダとリス
第十話
準備中
第十一話
準備中
第十二話
準備中