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第九話
ハカランダとリス
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降りません、雨が降りません、兎に角降らないんです。
例年4、5月は殆ど降らないんですが、それにしても今年は降らな過ぎます。
6月は雨季のはじまりなんですが、一日ちょろっと降ったきりでもう終わろうとしています。
いくら何でももう降るだろうからって、かねてから欲しかったハカランダの苗木を植えました。
英語圏ではジャカランダって呼ぶんで、日本でもそれで知られている紫色の花をつける樹です。
咲く時期も、葉より先に花をつけるところもサクラと同じで、日本人には郷愁を誘う樹なんです。
30センチくらいの苗で、大木になることはおろか、花をつける迄私の目が黒いかどうか保証の限りじゃないんですが、兎に角楽しみです。
ところがある日、その大事な大事な苗木の脇にポッカリと穴が掘られているんです。
直径は5センチくらいで、かなり深そうです。
マムシか野ネズミの穴かと思い、マムシだったらどうしようとおっかなびっくりバケツ一杯の水を注いだらあっという間に吸い込まれてしまいました。
やややって、土手になってる下を見ると水たまりが出来てます。 そうです穴には出口が有ったんです。
たぶん縦穴の途中に横穴が掘ってあってそこに住んでいて、水を注いだら慌てて出て来るだろうなんて思った私をさぞかし笑ったことでしょう。
でも兎に角これじゃ水が溜らないので、小石と泥で入り口を塞ぎました。
ところが翌日にはまた穴が開いているんです。
いささか頭に来た私は年甲斐もなく、よし今日は出口を塞いで水攻めだと、日が傾き涼しくなるのをテラスに座って待ちました。
ふと、ハカランダの有る方を見ると何やら動いています。 リスです。
車を走らせていると前を横切ったり、農道を散歩しているとトウモロコシの畠から飛び出してアルファルファの中に飛び込んだりすることはよく有るんですが、一ケ所に停まっているのを見るのは初めてです。
ゴルフ場で稀に見かけるのは緑色ですが、この辺りのはネズミと同じ色です。
色は冴えませんが、仕草はまぎれもなく可愛いリスのもので、それを見ていると水攻めにする気はなくなってしまいました。
穴の周りに土手を作り、穴には水が流れ込まず、苗木の周りには水が溜るようにしたのです。
初めっからそうすべきだったんですよね、私もまだまだです。
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