♪ Cerezo Rosa ♪
第十九話
来た々々電気が来た
やっと来た
さぞかし、感慨に耽っているとお思いでしょう。 でも、10ヶ月も待たされると、狼少年じゃないけど、もう電気はこないかも知れないとしらけ切ってましたから、なんだ今頃きやがってというのが正直なところです。
ま、でも気を取り直して、電気工事についてすこし御紹介しましょう。
エレキの時代の電気工事
メキシコを、あちこちと言う程は行ってませんが、旅して感心することは、いわゆる秘境と呼ばれるようなところにも電気が行っていることです。
ドアに錠がなく、トイレに便座がない、そんな辺境の安宿でも電気だけは有り、さすがは社会主義国と感心させられます。
でもそんなとこへ電気をどうやって引くのかなんて考えたことはありませんでしたが、今回我が家に引いてみて分かりました。
まずは、電柱は等間隔で一直線上に建てなければならいのに測距儀のようなものは使いません。
許可申請書に添付されてる図面はコンピューターで描かれてんですが、距離は一歩、二歩って歩いて測り、一直線に並んでいるかどうかは目視なんです。
木立や、雑草が茂っていて見通しの悪いところはどうするかっていうと、地面に突き刺した背丈ぐらいの鉄棒の先に、そのへんに転がってるプラスティックボトルを被せて、それを忍者よろしく葉や枝の間を目をこらして探し、大声で、右だ左だって指示するんです。
幹線道路なんかの工事は、ちゃんと測距儀と無線を使ってるんですけど、零細な業者には手が出ないんでしょう。
電柱をうめるための穴掘りも、鉄棒で突っ突いては耳かきの親玉みたいなものですくいあげるんです。
最初の1メートルぐらいはいいんですが、堅い地層に突き当たると大変です、穴の直径はおよそ50センチと決められてますから、つるはしを振るう空間は無いんです。 ちなみに深さは1メートル70センチと決められてます。
うまい具合に大風で折れた大木
穴の位置を見通す目印
穴掘りの突き棒と、耳かき
直径50、深さ170センチ
私の契約した業者は、大学で資格もとり、未だに肩書きにこだわるここの社会で「エンジニア」と呼ばれるんですが、いわゆるアスタマニャーナの典型。
まだ工事許可もとってないのに、この週末には電柱を建てますなんて平気でその場しのぎのことをいうんです。
彼の思うつぼに嵌まり、しまいには期待しなくなってなんと8ヶ月、とうとう電柱を積んだトラックが現れた時はその勇姿に思わず拍手をしそうになりました。
クレーンでぶら下げて穴に入れるんですが、垂直になっているかどうかは先端に重りのついた糸を透かしてみて、チョイ右とかオット行き過ぎたとかってやるんです。
電線が立ち木の枝に触れるおそれがあり、半絶縁線というのを使えという指示だったんですが、コストが三倍もする上、重いから電柱の間隔も短くしなければならないので、頻繁に枝払いをしますって誓約書を書いて、普通の線を許可してもらいました。
枝を払うには、町役場の許可がいるってのは、自然保護って先進国なみのシステムが有るんですが、許可書は現地も見ずにチャカチャカってタイプを打ってくれます。
おまけに、貰ってから気がついたんですが、対象の木の名前が単数、つまり一本だけ、になってんです。
枝払いは、動力鋸なんかは使わず、斧と鉈を振るってバッサバッサとやります。
その御仁かなりの年配に見えたんで、木から下りて来たところで歳を尋いたら私と同い年で吃驚しました。
クレーン車登場
電柱を穴に入れる
垂直を出す
斧を振るう老人
電柱の上で作業する人達が軽々と作業するのを見て、「ボラドール」という先住民以来の伝統的ショーとイメージが重なりました。
でも、本線に接続する電力庁の作業車は昇降機構のついた安全な箱におさまり、楽々と作業します。 ちなみにこの車には穴掘りの大きなドリルもついています。
でも、電力庁の作業者達は近代的な作業車で安全に仕事をします。
電柱が立って、電線も張って、トランスも載せて、もうこれで電気が使えると思いきや、そう簡単には問屋は卸してはくれませんでした、そっからさらに2ヶ月かかったんです。
感情を込めると話が長くなるんで、淡白にいうと、業者がどっかで安い電柱を買ったらしく、一本が規格外で刎ねられたのと、木の枝をもっとはらえと注文がついたんです。
業者任せにしておけば、アスタマニャーナになるのは見えみえなので、自分で電柱を買い、クレーン車を持っている下請けの工事屋に取り替えさ、業者には申請書類だけなおさせるってなちょうしでした。
木の枝もそうです、C君自ら木に上り枝をはらい、写真を撮り、業者の襟首を掴んで役所に同行させました。
いやいや、ほとほと疲れました。 でも、許可を取るのに半年を要した鉄道が、我が家に来る電線の下を通るのを見たとき、初めてヤッタねと思いました。
電気が来たんで、この田舎家シリーズもこれでおしまいとお思いでしょう。
ところが、なんと続きが有るんです。
作り付けの家具を作る大工が、工事なかばにして、もうやだって投げ出しちゃったんです。
詳しくは次号を、、、、やれやれ。
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