♪ Estrella Ranchera ♪
第十七話
ほんとの野良犬
お隣に牛の牧場があるんですが、人は住んでなくって、毎朝父と子が餌をやりにかよって来ます。
そこで用心の為飼っている犬のところに、どこからともなく集まって来た野犬達が居て、彼等にも餌をやるもんで、この辺りに住みついてしまいました。
日中は辺りに誰もいなくて退屈してたのが、我が家の工事が始まると本拠地がすっかり我が家になってしまって、人が通りかかると、まるで自分の家のような顔をして吠えます。
シロ
クロ
チビ
ペラ
ただ一匹いるメス犬「ペラ」のお腹が大きくなって来たんで、流し台の下とかで産まれると困るなって思っていたら、いつからかあまり姿を見かけなくなりました。 ある日棟梁がこっちへ来て御覧って、小川の土手の方から手招きするんで、行って見ると、土手の急な斜面に横穴が掘ってあって、その中に生まれたばかりの子犬が居るんです。
犬と言えば人に飼われているか、飼い主が居なくっても、空家の縁の下とか、人の造ったものの中で暮らしているもんとばかり思っていたんですが、まるでタヌキやイタチのように、自力で土の中に巣をこしらえてあるんです。
誰に教わるでもなく、誰に助けてもらう訳でもなく、子供を産むために自分の足だけでこれだけの穴を掘ったかと思うと、しばらく声が出ませんでした。
そう言えば、飼い主のいない犬のことを「野良犬」って呼ぶのは何故だろうって不思議に思ったことがないのに気がつきました。
「野良」ってのは畑なんかのあるところのことで、このあたりには恐ろしいマムシやウサギ、リスなんかの本当の野生の動物も居ます。
そんな中で暮らす彼等こそほんとうの「野良犬」で、蔑称でもなんでもないんだと思います。
うちの犬に蚤をうつすからって、毛嫌いしてたんですけど、彼等の健気な生きざまを目の当たりに見て、邪見に扱うのはよそうと思いました。
ある日、棟梁達がマムシに襲われている小リスを助けました。
子犬達が襲われないといいのですが。
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