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♪ Canta Mexico ♪
panchos


cactus2
第十三話

似合いの車

cactus2

 ある日C君がボロンボロンのピックアップに乗ってやって来ました。 この程度の車はメキシコの街なかでは珍しくないんですけど、御近所同士が外車の新型を競い合っている、この住宅街では、まるで、ロバ車が迷い込んで来たようです。 失礼ながら、思わず吹き出してしまいましたが、聞けば、頼まれて売りに出しているんだとのことでした。

cara
 モデルは、日本だったら、お金を払っても引き取ってくれない1979年型のフォードです。 値段を聞くと私のセカンドカー92年型ビートルとほとんど同じ20万円代です。 なるほどね、メキシコじゃ古い車は4人しか乗れない乗用車より、荷台にお爺ちゃんお婆ちゃんや子供を満載できるトラックの方が価値が高いんだって感心しました。

 あんまり私が笑うんで少し気を悪くしたC君が、見かけより程度が良いから乗って御覧と言いました。 エンジンをかけて驚きました、パカンスカンパカンスカンって、物凄い音がするかと思いきや、ガタンガタンのドアを閉めれば、アクセルを踏み込んでも(私の耳が悪い所為も有るでしょうけど)とても静かなんです。
 アメリカはアリゾナ州が初車検の地で、流れ流れてメキシコに辿り着いたのが4年前。 何代目かのオーナーは好きものだったらしくオートマ、四駆のこの車の車高を上げてあります。 おかげで、235/75-R15と大きなタイヤがついているにも関わらず、ずいぶんチンチクリンなタイヤがついているように見えます。 そして極め付けは、そのサイケな色感覚からしてメキシコで塗ったことは99パーセント間違いないボディーストライプです。
 エンジンはV8の6リッターと来ては、ガソリンがぶ飲みだろうからと、とても買う気はおこりませんでした。 でも、C君が持って帰ったあとも、なぜか印象に残っていて、時折脳裏を掠めるんです。
 そのうち、ふと、そうだ、あの車は農家をバックにすれば風景に溶け込むんじゃないかと思い始め、次にC君が来た時に、ビートルと物々交換することにしました。
 牛とカボチャはでかい程良いってお国のピックアップだけあって、兎に角でかいんです。 日産のピックアップがまるで軽自動車のように見えます。 コンパクトだとか、効率だとか、省エネだとかせせこましい理屈なんか無い、古き良き時代の車です。 何となくふにゃふにゃしてるけど軽いパワステのハンドルを手のひらで切り、ちょこっとアクセルを踏むとグヮグヮグヮーって背中が、これもフワフワの、シートに押し付けられラクチンこのうえないんですね。 若い頃バカにしていたアメ車の良さが、制限速度なんか有って無いがごとき、広い大地を走る道路で初めて実感として分かりました。 V8だってのは見れば分かるんですけど、何リッターなのかは車検証に記載が無く分からなかったんでネット検索で調べました。 その時ついでに分かったんですけど、このモデル、その筋には人気が有るらしく、Old Weller'sとかってニックネームで今でも、売りたし買いたしのコーナーに出てんですね。 で、その値段を見て驚きました。 勿論内外装ともよくメンテされてますが、何と、8,600ドルの値段がついてました。 それが、2,000ドル程度で手に入ったかと思うと、またまた気に入りました。



V8 エンジン、でもなぜか、車検証には4気筒となっている。 きっと、片側からしか数えなかったんだ。 おかげで税金は安くなってるかも。 オートクルーズ、エアコンもついてるけど、もちろん機能していない。 (註:ネットサイトからの写真) 計器板の上はパカンパカンにひび割れしていて、カーペットのようなものが被せてある。 ひび割れと言えば、ウィンドーがラスも端の方が蜘蛛の巣のようにひびが入っている。 驚いたことに街のガラス屋に行ったら、今も補用品を14,000円で売っている。  オーディオは鳴らない。 壊れてるからでなくって、これは私が張り付けた写真だから。 オートマはコラムシフト3速で、2駆4駆の切り替えレバーが床についている。(写真上)
 シートには木綿で編んだ毛布のようなものが被せてある。(写真右)
 C君はしきりとタイヤぐらいは新しくしたらと言うけど、サイズこそ揃っているものの一本として同じメーカーの物が無いと言うのが、なんとも言えず嬉しくって代える気になりません。 かっては、金持ちのグリンゴ(ヤンキー)にスポーティーな車として使われていたであろうのを、そんな機能には目もくれず、ひたすら物や人を運ぶ道具として使って来たカンペシーノ(田舎もん)の体臭が染み付いているようなこの車が、このランチョには似合いの車だと思うからです。





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