♪ Mambo No.5 ♪
第十話
技術屋バカ
その2
サマータイムが始まって2週間がたちましたが、どうもしっくりしません。
建築現場には大体毎日夕に方出かけるんですけど、以前は陽が落ちかかった頃、仕事が終わり、いかにも今日一日よく働いたって感じで、棟梁達が家路につくんですけど、サマータイムに入ってからは、未だ陽が高くもうひと働きしてくれないかなぁって感じだし、棟梁達も、なんか申し訳なさそうに帰っていきます。
仕事が終わったあと未だ明るいから、自分のことが出来るって言うけど、そんなもんもってない私なんかには、逆に、陽が落ちたと思ったらもう寝る時間で、一日が短くなったような気がします。
ま、そんなこんなでも、田舎屋造りの方は、その後、つつがなく進んでいます。
1)
柱の部分にコンクリートを流し込み終えると、柱と柱の間に、柱と同じ方法で梁がわたされます。 床から2メートル程度の高さが標準のようです。
2)
梁の上にはさらに天井迄煉瓦を積みます。 天井は、将来二階屋にすることを考えて、水平にしたかったのですが、屋根の上に雨水を残さない方が良いという棟梁の強い勧めで緩い傾斜をつけました。
3)
天井を支える鉄骨を乗せます。 鉄骨と鉄骨の間は、はじめに薄い煉瓦を乗せその上にセメントを流します。 どうやって煉瓦を載せるかって? それは次回のお楽しみ。
ここで、ちょっと寄り道をして、この鉄骨を造った町工場を御紹介しましょう。
メキシコでは、金持ちの塀に囲われた安全なお屋敷は別にして、普通の民家のドアや窓枠は頑丈な鉄製が普通です。 そして、日本ではドアや窓は規格化されていて、家の方を窓やドアにあわせるという本末転倒なことが行われていますが、嬉しいことにメキシコではオーダーメードなのです。
で、それらを造るところが、かなり小さな街にもあります。 工場というにはお粗末で、農家の庭先みたいなところにカッターと、作業台と、溶接機だけがあるようなところで、私がオーダーしたところでは、牛迄飼っています。
4)
溶接は建物の中でもしますが、なんせ私がオーダーしたのは長さが10メートルもあるので屋外での作業になります。 溶接治具なんかは無く、職人の勘とコツだけですが、見事に真直ぐに仕上がります。
5)
作業台の奥には牛が4、5頭いて、まるで牧場に居るような匂い。 失礼だから写真はとらなかったけど、反対側の庭には、洗濯物が満艦飾。
6)
ドアや窓枠はキロいくらと目方で値段が決まり、出来上がるとこの天秤量りに吊るします。
ダイニングキッチンは縦方向が7メートルもあるので、中央に柱を一本建てることになりました
(写真下左)
。 床を貼る前に地面を平らにしますが、道具は板一枚で、先端を針金で縛り、右手で引っぱり上げては、右足で踏み付けて叩き付けます。 なんとも言えずリズミカルな動きで踊り好きのメキシカンにはぴったりの仕事です
(写真下中)
。 将来二階を設けられように柱の中にPVCパイプを入れました
(写真下右)
。
7)
柱はボール紙の円筒に鉄芯を入れ、コンクリートを流し込み、固まったらボール紙を剥がして出来上がりです。
8)
床の水平度を出すには部屋の対角線状に水平に張った糸からの高さをメジャーで測りながらスコップで均していきます。
余談:ドキッ、ホッ
実は建築許可が下りたあとも気掛かりなことがありました。 というのは、現在ある道路を残す条件を地元の人たちと取り決めた訳ですが、その内容を議事録にし、関係者がサインするよう役所の女性部長から村長に指示がありました。
でも、弁護士から、もしこれにサインすると、現在進行中の完全な私有地とする手続きが完了しても、それに優先してしまうから、サインしないで、手続きが終わるまで時間稼ぎをするようにと言われていたのです。
指示があった時、村長が私は字が書けないとか言って渋った様子と、女性部長にチョコレートをプレゼントした時の嬉しそうな顔から、サインの件は忘れてくれるんじゃないかって期待していました。
1ヶ月ぐらいが音沙汰なく経過して、こりゃぁ忘れて呉れてるなって思いだしたある日、現場に行くと、棟梁が、今日女性部長が来て、役所に来るよう伝言があったと言われました。 やっぱりダメか、あと一ヶ月はのばさなきゃって、取りあえず連休が挟まったのを幸い一週間出頭しませんでした。 恐る恐る出頭すると、未だチョコレートの利き目は残っているようで、にこやかに「御機嫌いかが」なんていわれたけど、サイン以外の用件は思い付かないんで、曖昧な笑顔で応ずるしかありませんでした。 で、実はボールが欲しいんだけどって言われたときには、私が聞き違えたに違いないって思いました。 ボールですかって聞き返すと、サッカーボールが2個、バレーボールが3個、バスケットボールが2個、それに野球のボールを1ダース、ついでにバットを4本寄付してほしい。 貴方には建築申請しなかった件に対する罰金を免除したんだから、これぐらいは安いもんでしょって言われました。 よし、これでサインの件は乗り切れるって思い、勿論承知しました。 現場に戻って棟梁に話すと、彼もこれで間違いないって喜んでくれました。
折しも通りかかった馬上の人たちまで、喜んで呉れてるように思えました。
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